Firefly 第18話 「意味のない問い」

カズの指がそっと頬から離れる。
そして、その指が私の右頬にかかる髪をすくい上げ、耳の上にそれを掛けた。


「…え…」

「こうやって、髪も耳に掛けてさ。
なるべく顔出した方が… その可愛さもより一層、際立つんじゃない…?」


思わず閉じてしまったまぶたを開けると、そこには優しく微笑むカズの顔があった。
自分の顔が、恥ずかしさのあまり火照っていくのが分かる。
カズはそんなわたしを気にもせずに、「ほら、こっちも…」って左側の耳にも髪をかける。

ばかみたい。
なに考えてんの?私…

さっきから友達だってことを、あんなにも強調して言っていたカズが、私にそんなこと…

そんな私を見られているのが嫌で、顔を伏せようとした私の耳にカズの指先が当たって、身体全体が小さくぴくんと跳ね上がる。


「…あっ! ごめーん(笑)
指…耳に当たった?」

「…あ、ううん…大丈…夫…」

「…つぐみちゃん?
どうかしたの…?」


下から顔を覗き込まれて、咄嗟に自分の顔を両手で覆った。
「えぇ~っ!?」って声のあと、カズの笑い声が耳元で響く。
指の間からそっとカズの様子を窺うと、そんな私のことをカズも見ていた。


「…もぉっ!
恥ずかしいから見ないで…!」

「…え? なんで(笑)」

「なんで…って、わかって言ってるくせに!
なに誤解してんだって思ってるんでしょ!?」

「ちょっと!! なにがよ(笑)」


自分のそんな一言が、墓穴を掘るのなんてわかってはいたけど…
そのままカズの前に自分の顔を晒しているのが、恥ずかしくてしょうがなかった。
カズはただ私の髪を…
耳に掛けるために、私の頬に手を伸ばしただけだったのに…
なのに、私は…

悪いのは自分なのに、そんな私を楽しそうに覗き込むカズの顔を恨めしく睨む。
カズはさらに可笑しそうに、口元を手で覆ってニヤニヤと笑う。


「そんな可笑しい!?
…もぉ、バカみたい私。」

「そんな事言わないでよ~(笑)
さすがに俺も、人妻には手出したりしないからさ。
それとも…手、出してほしかった?」


カズの指先が私の前髪を軽く摘む。
どこか色気を取り戻したみたいなカズの瞳に、思わず吸いこまれそうになる。
そんなの…
そんなわけ、無いのに…


「そ、そんなこと…!」

「ふふ(笑)
ほら、飲もうよ! ビール温くなっちゃうよ?」


けど…
そんな顔を見せたのはほんの一瞬で…
カズは何もなかったみたいにそう言って、テーブルの上の缶ビールを私に手渡す。

部屋の中は、以前のままで…
カズもあの時のままみたいで…

けど私は結婚して…
その結婚は上手くいっていなくて…

こんなの…
自分が都合よく甘えてるだけだって、わかってる。

わかってるけど…

この部屋とカズは、私を心地よくさせてくれる。
雅紀とぎくしゃくするあの部屋なんかより、ずっと…


「…つぐみちゃん」

「…え?」


ぼんやりとそんなことを考えていた私のことを、カズはまだ見つめていた。
どこか私を慈しむようなその表情に、前のような妖しさはない。
もしかたらカズは、私と雅紀が上手くいってないことに気付いて…
私のことを元気づけようとしてくれているのかもしれない。


「また、暇な時とか…連絡くれる?
俺、呼ばれたら速攻駆けつけるからさ(笑)」


カズは、自分の缶ビールの中身を飲み干して、そう言ってにっこりと笑った。

私…
甘えてもいいのかな…?
カズの優しさに、甘えてもいい…?
けど、そんなの…


「ほんとにー? 
もしもその時に、カズの隣に可愛い女の子がいたとしても…?」


カズは私の言葉に、一瞬だけ呆気に取られたみたいにぽかんとして…
けど次の瞬間には、また可笑しそうに笑った。


「うん(笑) あったり前でしょ~?
つぐみちゃんが連絡くれるのなら、そんなの放っておいて、俺、つぐみちゃんのとこに速攻行くからさ。」

「そんなのって(笑)」

「いや、だってさ…
俺にとって、今一番一緒にいたいのは…やっぱりつぐみちゃんだから…」

「…え…」


軽い返事のつもりだったのかもしれない。
けど、その言葉を発したカズの顔があまりに真剣で…

黙り込んだ私の顔を見てはっとしたカズが、「あー、うそうそ!!(笑) 超重たかったね、今の発言(笑)」って笑う。
そして、カズのその言葉を聞いて、安心するのが正しいのか…
ドキドキしている今の私がどうかしてるのか…
答えを見つけることが出来なくて、戸惑ってしまう。

私とカズは、良い友達…
そんなの、本当に可能なの…?


「あ… 私、そろそろ帰るね?
明日も仕事なのに、遅くまでごめんね。」

「…え?
もう帰っちゃうの?
俺なら全然大丈夫だけど…」

「…ううん。
またゆっくり遊びに来るね。
突然だったのに、付き合ってくれてありがとう。」

「そんなの、全然…!
…そうだよね。 
あんまり遅くなっても、ダンナさん…」

「…え?」

「あ、ううん(笑) なんでも…」


どこか逃げるように聞こえなかっただろうか…
そう思いながら立ち上がった私を、カズも追いかけるように立ち上がって玄関まで送ってくれる。
カズがなんだか寂しそうに見えるのは、私の勝手な思いこみだろうか…
カズが言った『ダンナさん』って言葉が、ちくちくと私の胸を刺す。
そのあとカズは、何を言おうとしていたんだろう…
けど、それを聞くことは出来ず、私は玄関で靴を履きカズのほうに振り返る。


「じゃ、またね! 
試験、頑張って!!」

「…うん。 ありがとう。」


優しい笑顔に、本当に寂しいのは自分なんじゃないだろうかと思う。

もしもあの時…
雅紀じゃなく、カズを選んでいたら…

パタンと閉じたドアの音を聞きながら、また私は意味のない問いを自分のなかで重ねていた。


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